「好きなんだ」
突然ヤマトから言われた言葉。 それを聞いた俺は心の中で、思わずガッツポーズとってしまった。
いつからヤマトの事を好きになったかと聞かれたら、多分最初からと言える。 つまりはアレである。 一目惚れ。 冗談のようだが真実なので仕方がない。 だから同じ選ばれし子供達だと言われた時、不謹慎だけれど嬉しいと思ってしまった んだ。だって好きな奴と、ずっと一緒に行動できるんだぜ?それってめちゃくちゃ嬉 しいじゃねーか。 まぁ、現実はそんなに甘くもなかったんだけどね。 だってヤマトの視界には、タケルしか入っていなかったから。 俺の入る隙間なんて、これっぽっちもなかったんだぜ。信じられるか? 正直、かなりむかついた。 確かに家庭の事情が事情なだけに、ヤマトがタケルに執着するのもわかる。ヤマトの 性格からしてもだ。 だけど。 悔しかったんだ。 自分だけを見ろとは言わない。でも、視界から外さないでほしかった。 だからだろうか。 あの冒険から、俺はとある作戦を計画し実行し始めた。 題して「ヤマトの視界に何としても入ってやるぜ」作戦。安直ではあるが。 作戦内容は様々である。 ヤマトの席が窓際なのを利用して、体育の授業中、馬鹿騒ぎしてみたり。 偶然を装って、登下校を一緒したり。 涙ぐましい努力の結果と、デジタルワールドで培った友情のおかげで、俺はいつの間 にかヤマトの親友という立場にまで昇格していた。 何だって良いんだ。ただヤマトが俺を見てくれるなら。 親友という立場だって良かったんだ。 だってヤマトが側にいて、俺を見て、声をかけてくれて、笑って。 本当にそれだけで、嬉しいと思ってしまうのだから。 そりゃあ、俺の『好き』は友情なんかじゃないけど。 でも、ヤマトに正直に言ってみろ。アイツの性格だから、絶対に混乱すると思うぞ。 しかもそのまま、人生について考えて見る。なんか言い出して、北陸の方に旅立って しまうに違いない。それはさすがに困る。俺が。 だから、このままで良いんだ。 ヤマトを感じれるぐらいの側にいるだけで。 本当に、それだけで。 なのに。
「俺の事が……好き?」
なのである。 神は哀れな子羊を見捨てはしなかったようだ。 想い続けて早幾歳。今迄の過去を振り返ると、自分のいじらしさに感動すら覚える。 しかし、面と向かって言われると、こう…なかなか照れるものだ。 何か言おうとしているんだけれど、どうも喉が固まってしまったようで上手く声が出 ない。ああ、早く何か言わないと。ほら、ヤマトの顔が段々不安そうになってきた。
「悪い…突然こんな事言って…。太一の気持ちも考えないで……迷惑だったよな」
ほら、やっぱり。動けよ俺の喉。 早く言うんだよ。俺の気持ち。 今言わないと、永遠に駄目になっちまうぞ。 自分を叱咤して、俺は軽く深呼吸して声を出した。
「俺も…。俺もヤマトの事、好きだよ」
よっしゃあっ!言ったぞっっっっ!! 緊張しているのがばれないように、いつもと変わらない雰囲気で言えたと思う。 だが心臓は煩いほど鳴りつづけている。でもまぁ、心音までは聞こえないから大丈夫 かな。 俺の予定では、このまま想いが通じ合った二人は喜びの抱擁を交わし、輝く未来への 語りへと入る筈だった。確かヒカリが呼んでいた漫画が、そんな展開だったような気 がしたからだ。 だがヤマトは俺の言葉を聞くと。少し俯いて悲壮な顔をしていた。 何なんだ一体。
「……違うんだ、太一」
何がだよ。
「太一の好き…と、俺の好きは別モノなんだ……」
はぁ?
何言ってるんだコイツ?
一緒だろ?だって言ったじゃないか、俺も。 好きだって。 ちゃんと言っただろ?
「太一は俺の事、友達として好きだって言うんだろ?…だけど、俺はそうじゃなくて 一人の男として……。その…そういう意味での好きなんだ……」
あ。 なるほど。 コイツ、俺が只の友愛の意味として言ったと思っているな。 ヤマトらしいっつーか何つーか。 俺は少し苦笑して、誤解を解こうと口を開いた。 だが、ヤマトは俺に喋る隙を与えないまま、何かよくわからない事を必死に喋り始 める。
「本当は言うつもりじゃなかったんだけど…だけど、もう如何し様もなくなって…。こ のまま黙っているのが、どうしても 辛くなって…」
「ヤマト…?」
「御免、太一。もう俺、お前の親友でいる事が出来なかったんだ」
「ヤマト…ちょっと…」
「嫌…だろ?男から告白されるなんてさ…。御免…本当に御免。もう、太一の側に近づ かないようにするから。でないと俺、何するかわからないから…」
人の話を聞けーっっっっ!!!!!!! 何勝手に自己完結への道を進んでいるんだっ。 殴ってやりたい拳を抑えて、俺は無い知識をぐるぐる回して必死に考えた。だってこ こで殴りつけたら、またヤマトは変な風に誤解するに決まっている。 しかし何か反論しようにも、俺が喋る隙すら与えてくれない。 いつもは無口のくせに、こういう時は饒舌になるヤマトの口が恨めしい。 そこで俺は、ふと気づいた。 あ、そうか。その手があったか。 俺の気持ちを誤解させずに伝える方法。 とても簡単すぎて今迄気づかなかったが。
「ヤマト!」
気合を入れて大声でヤマトの名前を呼んだ。 俯いていたその瞳が、俺を捉えた。 次の瞬間。
俺はヤマトにキスしてやった。
体温が低いのか、俺より少し冷たい唇。 昔からどうしても変わる事のなかった身長差。ヤマトの方が俺よりも少し高い。 俺は目を閉じていたから、ヤマトがどんな顔をして受けとめたのかはわからないけど 俺の気持ちはちゃんと届いた筈。でないと嫌だな。 もういいかな、と思いヤマトから離れた。 自分でしておきながら何ですが。 かーなーり恥ずかしい。 しかしやったのは俺の方だし、何よりヤマトの反応が気になるので、俺は顔を上げて ヤマトの顔を見た。
「………ヤマト?」
見るとヤマトは顔を真っ赤にして硬直していた。そしてその後。
「わーっっっっ!!!!!ヤマトーーーっっっっ!!!!!!!」
見事にブッ倒れた。しかも後頭部から。 物凄い激突音がしたから、きっとたんこぶぐらい出来ているだろう。
「ヤマト……?」
恐る恐る覗きこんで見ると、ヤマトは顔を真っ赤にしたまま気絶していた。 さて、気絶の原因は衝撃が強すぎたのか、頭部強打のせいか。 どっちにしろ自分のせいなのは確かだな。 俺は心の中で謝罪しながら、ヤマトを担いで何とかベッドの上へと寝かせた。 ここが外でなく、ヤマトの部屋の中で良かったと心の底から思った。 それにしても。 これだけで動揺されては、この先いろいろと大変なのではなかろうか。 何だかんだ言って、ようやく両想いになれたみたいだし。 やはりそうなったからには、ほら…やっぱり触れたいし触れられたいし。 そこまで考えて、俺は顔が熱くなるのを感じた。どうもヤマトの赤面が移ったみたい だ。 でも、まぁ。 のんびりやっていけばいいか。 何しろこっちは三年以上も待ったのだ。これ以上待たされても大丈夫だろう。 それにヤマトだって男だし、それなりの欲求だってあるだろうし。 それに懸けてみよう。うん。
「………太一?」
少し身動ぎして、ヤマトが目を覚ました。 まるで空と海を足したような蒼い瞳が俺を捕らえる。 その事実に俺は満足して、笑顔で言ってやった。
「俺もヤマトの事好きだったんだよ。知らなかっだろ」
でも俺の方が最初に好きになった事は内緒だけどな。 そう考えていると、ヤマトはゆっくりと起きあがって、まだ笑っていた俺にキスをし てくれた。