「地球って本当に青いよな」

 ぽつりと呟いた銀河のセリフに、その場は妙な沈黙に包まれた。つい先程まで、しみじみ
 と地上に残してきた大切な人達との別れの余韻に浸っていたのに、その心情が一瞬でふっ飛
 ぶ。ある意味、ファイナルアタックをくらったような気分だ。

「何当たり前の事言っているのよ銀河」
「銀河…いくらなんでもそれはちょっと…」
「地球が青いのは当然の事じゃないのか?」

 エリス、北斗、スバルはそれぞれ別の言葉をかける。が、しかし言っている内容はどれも
 同じ。要約すると「馬鹿?」と聞かれているだけだった。
 さすがの銀河でも三人の言いたい事は理解できたので、少し眉を吊り上げて哀れみの視線
 を送りつける連中を睨みつけてみる。

「何だよ、その目は」

「いや…だって、今迄だって何回も地球は見ているじゃないか僕達。電童と凰牙に乗って」

 確かに今迄何回も地球は見ている。やれ隕石破壊だの、やれ螺旋城破壊だの、何故か破壊
 活動が付属品としてついてくるが。だが、何回も地球を見ているのは確かなのである。なの
 に何故、今になってしみじみと「地球は青い」という感想が出てくるのであろうか。
 妙にというか、物凄く頭の良い三人組には、銀河の思考は理解出来ないのだった。

「別に大した意味はねぇよ。ただ、青いなぁ…って。綺麗だなぁ…って思っただけだよ」

 少し照れた感じで、銀河がぶっきらぼうに答える。

「だってさぁ、こうして見ていると不思議と思わねぇか?」
「何が?」
「俺達が、あの惑星に棲んでいるのが」

 その言葉に反応して、全員が窓越しに地球の姿を見る。
 もう、あんなに小さく見えている惑星に自分達はいたのだ。ほんの数十分前までは。

「確かに…」
「そう考えると、何だか変な気分ね」

 また沈黙が流れた。だが、この沈黙は心地良い気分だ。優しくて、何だか暖かな気分にな
 れる。

「銀河の言う通りだな」
「スバル?」
「地球は…とても綺麗な惑星だと思う」

 ここに初めて来た時にも思った。何て青く、美しいのだろうと。そして、この惑星で大切
 なものに出会い、触れ、その想いは深くなる。
 守りたい、と。
 心からそう思える。
 次の瞬間、スバルは背中に激しい衝撃を受けた。思わずむせて、涙目になってしまう。

「あったり前じゃねーか。だって俺達の棲んでいる所なんだからさっ」

 どうやらスバルは、銀河に激しく背中を叩かれたようである。どちらかというと頭脳派で
 あるスバルには、銀河の激しいスキンシップは衝撃的なものらしい。既に慣れてしまった北
 斗は、少し同情の視線を送ってみた。

「俺達の…?」
「そう俺達の。俺や北斗やエリスや、スバルの」
「銀河…」
「だから、頑張ろうな」

 そう言って右手を差し出す。スバルは、恐る恐るとその手を取った。自分より小さな銀河
 の手はやはり小さくて、何処からあの力が出されるのか、痛む背中を感じながら思った。

「あれー?銀河とスバルだけが頑張るワケ?」

 少し怒ったようなそぶりを見せて、北斗が言う。

「まさか。北斗もエリスも、それにGEARの皆で頑張るに決まっているじゃないか」

 その言葉を聞いて、銀河とスバルが握り合っているその手の上に、北斗とエリスも手を重
 ねる。
 そしてお互いがお互いの顔を見て。ゆっくり微笑んで。

「頑張って、地球に帰ろう」

 それはまるで神聖なる儀式のようで。

 

 


 作戦会議があると呼びに来たアルテアは、部屋の中に入る事が出来ないまま、子供達の強
 い想いに心打たれ、柱の影で少し泣いていた。