病める時も
健やかなる時も
死が二人を別つ時まで
「何それ?」
俺が呟いた言葉に、アグモンは不思議そうな顔をして聞いてきた。
「俺もよくわかんないけど、この前ヤマトの家に行った時に見た『ドラマ』ってヤツで言っ ていたんだ。大好きな人と、いつまでも一緒にいられる言葉みたい」 「へー。何だかよくわかんないけど、凄いね。大好きな人と、ずーっと一緒にいられるんだ」
アグモンは何が嬉しいのか、それを聞いてニコニコしていた。 俺もその笑顔につられて笑う。
「アグモンだったら誰に、この言葉を言うの?やっぱり太一?」 「うんっ。ボク、太一の事大好きだもん」
無邪気な笑顔。 大好きだけれど、こういう時は少し切ない。
「あ、でも」
アグモンがガブモンの顔を見つめて言った。
「ガブモンとも、ずっと一緒にいたいな」
どきり、とした。 それは俺が一番欲しかった言葉だから。
「ガブモンは?」
俺は。 俺もヤマトとずっと一緒にいたいけど。 だけど。
「アグモンと同じだよ。俺もアグモンと一緒にいたい」
俺の正直な想い。 その言葉を聞いて、アグモンはにっこりと笑った。 俺も笑った。
「ねぇガブモン。そのずっと一緒にいられる言葉…うーん呪文なのかな。ボクに言って」 「え?」 「だってガブモンとずっと一緒にいたいもん。ガブモンもそうでしょ?」 「……いいの?」 「だってボク、ガブモンの事大好きだもん」
何て真っ直ぐな心。 俺はその想いが嬉しくて、その『ドラマ』で見た光景を思い出した。 そう言えば、花がいるはず。 俺は周囲を見回して、鮮やかに咲いている花を幾つか摘み、小さな花束を作った。 そしてそれをアグモンにそっと渡す。
「きれいだね」
花束を受け取ったアグモンは嬉しそうに笑う。 それから俺達はゆっくりと向かい合って、一つの儀式を始めた。
病める時も
健やかなる時も
死が二人を別つ時まで
ずっと一緒に
「ねぇ、ガブモン」 「何?」 「死が二人を別つ時まで…って言うけど、ボク達はどうなるんだろうね」 「……わからない」
俺達デジモンには確実な死というものがない。 例え何らかの原因で消滅したとしても、また始まりの町で再生されるからだ。 だけど、それは普通のデジモンの場合であって、俺達みたいにパートナーがいる場合は少 し違う。 俺達の命は、選ばれし子供達と繋がっている。 俺の命はヤマトに。 アグモンの命は太一に。 それぞれ繋がっているのだ。 ヤマト達が生きている限り、俺達も生き続ける。 だけど、その先は? 正直言ってわからない。 死した後、他のデジモン達のように再生されたとしても、パートナーを失った俺達が果た して、以前と同じ記憶と心を持つのだろうか。 わからない。 けれど。
「ガブモン?」
繋いだ手が暖かい。 この温もりを感じている間は、ずっと一緒だから。 先の見えない何時かよりも、側に感じている今が大切だから。 だからそれまで。
「ずっと一緒にいようね」 「うん」
そう想い続けているかぎり。 その約束は永遠になれるから。